評価規準-WebTrust規準

 監査法人等が行うIT関連の保証業務として、過去日本においてIT2号報告書として、米国で言うSOC3と一緒のカテゴリー(広く一般向けの報告)として扱われていたWebTrust報告書についても、解説しておきます。

 WebTrustとは、CPA Canada(カナダ勅許職業会計士協会)が管理するWebTrust シールプログラムのことを指しますが、電子商取引を行う手段としてのインターネットに対する消費者の信頼を高め、また、公開鍵基盤(PKI)を利用したアプリケーションに対する消費者の信頼を高めるために構築されたものです。もともと、米国公認会計士協会とカナダ勅許会計士協会(当時のCICA)によって開発された国際的な電子商取引認証局の検証プログラムであり、現在はCICAの後継団体であるCPA CanadaがWebTrustの規準改訂とシールの発行を行っています(詳しくはこちら)。

 このプログラムにおいて、SSL証明書などの電子証明書を発行する認証局は、毎年、監査法人の監査を受け、問題がなければ、その保証報告書をCPA Canadaへのサーバーへ掲載します。認証局のウェブサイトに行くと、WebTrustシールが貼られており、そのリンクをたどっていくと、CPA Canadaに掲載された報告書が閲覧できる仕組みになっています。

 認証局が、その保証報告書をブラウザベンダーに報告することによって、ブラウザベンダーが提供する各種ブラウザーソフトで、その認証局が発行したSSL証明書等が有効な証明書として認識され、インターネット上での暗号通信が、アラートが発生することなく行われる仕組みになっています。

WebTrust保証業務のスキーム

WebTrust Scheme

 なお、上記のスキームに関して、ブラウザベンダー側が定めたルールとして、Root Store Policyがあります。その中で、認証局に毎年の監査を要求していますが、その監査プログラムとして、WebTrustの監査プログラムと、欧州電気通信標準協会(ETSI)の監査プログラムが認められています。

 また、Root Store Policyに基づくスキームに類似したもので、Adobe Approved Trust List (AATL)プログラムがあります。このプログラムでは、Adobeが提供するアプリケーションにおいて、監査が行われた認証局が発行する証明書を信頼するように設定することで、アプリケーション上で行われる電子署名が信頼される仕組みになっています。

 AATLプログラムにおいても、WebTrustの監査プログラムと、欧州電気通信標準協会(ETSI)の監査プログラムなどが、監査プログラムとして認められています。

日本基準の変遷

 日本基準については、実務指針の管理番号が度々変更され、混乱している人もいるかもしれませんので、解説しておきたいと思います。

 日本においても米国の制度にならって、受託業務の内部統制等に関わる報告書は3つに分類され、実務指針の番号を取って、過去にSOC1に相当するレポートとして18号及び86号報告書、SOC2に相当するレポートとしてIT7号報告書、SOC3に相当するレポートとしてIT2号報告書がありました。「86号」「IT7号」「IT2号」と2桁以内の数値のためか、比較的覚えやすかったと思います。

日本基準の変遷

history

 しかし、実務指針の改訂及び実務指針の管理番号体系の整理に伴い、現状では、保証実3402、保証実3702に変更され、3分類を示す略称はありません。旧IT2号については、SysTrustとWebTrustの業務についての実務指針でしたが、SysTrustは実質としてTrustサービス規準で行うSOC3と同等の業務であるため、保証実3850(3702)に取り込むこととし、WebTrustは、旧IT2号の廃止に伴い、国際基準のISAE3000で対応しています。これについては、米国制度での取り扱いに歩調を合わせたものになっています。

 SOC1に相当する保証実3402は、国際基準と同じ番号を付しているため、ある意味混乱しなくて良いのですが、SOC2に相当するレポートは、過去IT7号として徐々に知名度を上げてきた(と思われる)ところ、その後3850(経過的に3852が存在)、3702に変更されたため、覚えにくい番号になってしまったように思います。

 これに対して、米国では、日本と同じように関連する基準名や番号の変更もありましたが、一貫としてSOC1・SOC2・SOC3の分類でブランドを築きあげてきたと思います。その結果、日本の実務でも、受託業務の内部統制に関わる報告書は、一般的名称としてSOC報告書と呼ばれることが多いと思います。